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しばかりき

 隣の芝は蒼く見える。他人の持っているモノが自分の持っているモノよりもよく見えてしまう反面、自分の持っているモノの良さには気が付かずに、悪い面ばかりが気になるという心理。SNSによって、今まで目に入ってこなかった“芝生”が目に入る様になり、無意識に比べてしまう自分に気がつく。

 そんな時、私には対処法がある。近くの公園で、読書をするのだ。ちょうどよく刈り込まれた芝生の上でお気に入りの文庫本を手に、天を仰ぐ。念仏のように繰り返し目を通した文字がパラパラと私の網膜から脊髄を通り、胸の辺りまで伝い、最後に弾ける音がする。古い2サイクルエンジンのようなバラついたリズムの音とともに、さっきまで乱れていた心が高さ20mmで揃い整ってゆく。うん、この高さがちょうどいい。

 芝は、日本でも古くは七百七十年頃、「万葉集」に、「しばくさ」の語があるほど、歴史が深い。その芝の上での読書は、いとも容易く私を本の中に連れたってくれる。

 ふと、風が、私を通り越してページを先にめくる瞬間、私は我に返る。

そろそろ元いた場所へ帰る時間だ。しおりを挟むと、読み終わった最後の文章が刈り取られて、消えた。

 刈り取った部分は、まだ私の胸の中で、パチパチと音を立てている。

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